「とんかつダイアリー第七回」
Eさんは僕とちょうど十違う。だけど全然いばらない。周りの人は僕達はそっくりだという。坊主頭でずんぐりむっくりで。Eさんはちっとも見てくれがよくないから、彼とそっくりだという事は僕もちっとも格好よくないんだろう。でも僕はそう言われる事が嫌いじゃない。
Eさんと二人で飲みに行った。頼りがいはないけれど大好きな兄といるようで(僕には兄がいないので)僕は、はしゃいでやたらと喋った。自分がいかにダメか。酒に飲まれて失敗ばかりで後悔の連続で。酔っ払うと僕は嘘をつく癖があるのですと恥をしのんで告白した。異性にもてるとか喧嘩をよくしたとか、誰も聞いちゃいないのにそんな話ばかりしてしまうのです、そうして、決まって翌日消えてしまいたい程の自己嫌悪になるのですと。
オレもそうだよ。とEさんは言った。だから翌日は妄想の部屋に閉じこもるんだ。
自分の部屋で寝ていたら昨日一緒に飲んでた誰かが抗議しにくるんじゃないかってバカみたいな被害妄想にとりつかれてね。『おい!昨夜のてめえの話は嘘ばっかだろ。しかも一人で喋りやがって。恥ずかしくないのか。』なんてさ。だから妄想の小部屋に閉じこもるんだ。そこは地下室でね。3つの鍵と秘密の合い言葉を知らなきゃ入れないんだよ。薄暗いけどステレオとシャワーと冷蔵庫があってね。ビールは随分入ってる。あとは難しすぎてなかなか読まない小説とね、中村雅俊とサザンと陽水のCDだけある。誰も入って来れないしさ。第一そんな部屋がある事すら知らないんだから。もう誰とも関わってない。ここなら誰にも迷惑はかけない。昨夜どれだけ迷惑かけてたってオレがここで一人でいるうち、みんな忘れてくれるだろう。そう思い込むんだ。実際にはもちろん自分の部屋にいるんだよ。みんなにも次会ったら謝ろうって思ってもいるよ。でもね、その秘密の地下室の事を考えると、とりあえず眠れるんだ。落ち着くんだよ。
僕は、ただ真剣にEさんの話を聞いた。そして僕は見た目だけじゃなく、この人に似ていると思った。自己嫌悪の瞬間、僕にも逃げ込む妄想の世界がある。
「似たような話が僕にもあります。聞いてくれますか?」と僕が言ったら、Eさんは優しく微笑み少しだけ身をのりだした。
2006年3月22日/BROKENSPACE 寺田
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