「とんかつダイアリー第六回」
先日惣菜屋のアルバイトでレジを打っていたら、大柄な欧米人のオバサンが「モウシワケナイ。」と言いながら二千円札を差し出した。
高校時代はイカ天ブームでバンドブームだった。彼女にふられたKは自作のラブソングで彼女のハートを取り戻す作戦を考える。デモテープを寝ずに作成した。「テラダにドラム叩いてほしいんだ。イメージふくらましておいてよ。」Kはプロみたいな事を言って僕にテープと歌詞カードを手渡した。Kは楽器ができない。テープからは彼の未練がましいラブソングがアカペラで流れた。歌詞カードの一番と二番の間にギターソロと汚い字で書かれている。カセットテープからは二番に向けて気持ちを鎮めきれないKの呼吸音が、まだこの世に無いギターソロの長さだけ聞こえた。
オリンピックで惜敗したい。
月末には麻雀をする。惣菜屋の僕と寿司屋の大将とハム屋の若店長とデパート店員のSさんの四人だ。僕らは大の麻雀好きだが、それぞれの勤務時間がずれているため、月に一回しかできない。雀荘『大三元』のママさんは僕達のことを「つきいっちゃん」と呼んでいる。
ボーリング場に男女八人くらいでやって来て大ハシャギする連中が嫌いだ。
アカペラのKと卒業してから一度だけ会ったことがある。高田馬場のパチンコ屋の前でバッタリ出くわしたのだ。二年ぶりの再会だった。彼は「見せたいものがあるんだよ。」と言いながらカバンをひっかきまわした。そして「今これに乗ってんだ。」とBMWの写真を差出してにっこりと笑った。
2006年3月22日/BROKENSPACE 寺田
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