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ほぼ10年振りに

レンタルビデオの会員になりました。昨日は「いまを生きる」を借りました。 今回のとんかつダイアリーは初の続き物。まずは前編です。(BROKENSPACE 寺田友)

「とんかつダイアリー第三回後編」
 
午後9時。僕はタクシーに乗っていた。119番で聞いたところ、皮膚科の先生が常勤する救急病院は川越にしかないとの事だった。僕の住む大宮からは相当な距離だが電車に乗る体力も気力も僕には残っていなかった。タクシーはあっさりと捕まった。家を出て繁華街に向けて歩き出すと一分もたたぬうちに空車のランプを光らせたタクシーに遭遇したのだ。神はいた。僕は見はなされてはいなかった。しかし僕に微笑んだのはやはり悪魔だった。

午後10時。僕はまだタクシー車上の人だった。
「いやあ。すみませんねえ。お客様。なにしろ不慣れでいやなに、もう大丈夫ですから。もう着きますよお。いやあすみませんねえ。」
僕はもう返事をしなかった。こいつ何回道間違えた?確かに僕が川越の病院の名を告げた時、こいつは知らないと言った。しかし「私もプロですから途中で聞きながら行けば大丈夫でしょう。」とも言ったのだ。「すみません。ちょっと聞いてきますね。大分近いはずですからね。今度聞いたらもう大丈夫だ。」ソノセリフナンカイメダ!
「いやあ。ばっちりばっちり。やっぱり地元の人間は強いわ。」
ソノセリフモキキアキタ!そしてやっぱりバカは聞きあきたセリフを繰り返す。
「あれ?おかしいなあ。あいつ嘘教えやがったな!いやあ困ったなあ。お客様。すみませんねえ。また聞きますからね。いやなに、今度は大丈夫だ。」

午後10時半。タクシーは病院の駐車場へと滑り込んだ。料金メーターは7200という数字を刻んでいた。僕は温厚な人間だと自負している。滅多な事で怒ったりはしない。疲れと怒りで僕の脳細胞がまともでない事は差し引いても2000円は余計に計測されているはずだ。しかし(繰り返しになるが)僕は温厚な男だ。1000円負ける、すみません、と言えば何も言わずに降りよう。そう決めていた。しかしヤツは今までの低姿勢が別人の口調でこう言いはなったのだ。
「はい。7200円」
えー!!そりゃキレますよ!!
「〇*〆♂☆ゑπ!!」何を言ったのかはよく覚えていない。いや多少は覚えているがここに記すのは差し控えたい。とにかく温厚な発疹男はキレたのだ。10年ぶりに。(10年前の出来事はいずれまた書こう。)
ヤツは言った。
「はいはい。分かりましたよ、じゃあ7000円でいいですよ!」
温厚発疹男に再びキレる体力は残っていなかった。

午後11時半。僕は待合室で痒みをとうに通りこした痛みに耐えて
いた。救急病院は不謹慎な言い方をすれば大いに繁盛していた。救急車も2回到着した。日常の暮しの中で見る事の出来ない非日常が担架に乗せて運ばれてくる。しかし、ここではこれが日常なのだろう。当たり前の出来事なんだろう。僕の診察はあっさりと終わった。食中りによる急性じんましん。ビビンバ冷麺におとした生卵が原因と思われるとの事。「すぐ治るわよ。熱いお風呂には入らない事。お酒は控える事。よく寝る事。出来る?」皮膚科の女医がつまらなそうに言った。

午前0時。僕は再びタクシーに乗っていた。勿論、運転手はあの
バカじゃない。好ましさを越えて恐ろしいほど無口な運転手だったが僕はかえって落ち着く思いだった。少しずつ見慣れた景色が車窓に映りだした。自宅前にタクシーが止まっても運転手は何も言わなかった。あ、着いたのか。と思った。料金は5000円もいかなかった。

薬が効いたのだろう。僕はあっという間に眠りにおちた。目が覚めたら発疹はただの一つもなかった。夢か?とも思ったが枕もとには今日の分の飲み薬がころがっている。非日常の残骸。

そしてまた退屈な日常が始まった。


2004年9月2日/BROKENSPACE 寺田

2004.02.15
とんかつダイアリー第一回
2004.06.04
とんかつダイアリー第二回
2004.08.27
とんかつダイアリー第三回(前編)
2004.09.02
とんかつダイアリー第三回 (後編)
2005.02.21
とんかつダイアリー第四回(前編)
2005.03.03
とんかつダイアリー第四回(後編)
2005.11.11
とんかつダイアリー第五回
2006.03.22
とんかつダイアリー第六回
2006.03.22
とんかつダイアリー第七回
2006.07.12
とんかつダイアリー第八回
2007.01.16
とんかつダイアリー第九回
2007.06.09
とんかつダイアリー第十回