2009年11月04日
廃墟から音楽がきこえる
TweetSOLD OUTしているarのセカンドアルバムModerate Lightsへのポスト
REVIEW By 湘南阪神少年 (神奈川県)
arを聴いた時、自分にとって大切なものを見つけては何度か味わってきたあの感覚を、ぼくはまたしても味わうことになった。人生において、そう何度も得られる感覚ではないだろう。
失われた10年以降、ぼくらはおそらく何もかもが崩れた世界に生きてきた。虚ろな大地の上には無数の廃墟と瓦礫とガラクタとが、あたかもぼくらの人生に是が非でも必須であるというような顔をして、散乱していた。それらをひとつひとつ選ぶことはできたが、ぼくらにとってどれが本当に必要なのかさえ分からなくなる程に、それらは無意味に多量だった。目を閉じたり、耳を塞いでみるのもひとつの手だったろう。だが自分にとって大切なものを発見するためには、見たり触れたり聴いたりしなければならなかった。そんな強制的に自由な世界で生まれてくる映画や音楽は、いったいどんなものなのか。ぼくらはそのことを知っている。それらに罪がないことも充分に知っている。それらはただただ無意味なだけなのだ。ぼくらは夕闇の中、ほとんど崩れかけた廃墟を仰いでは、その影にうなだれた。「どこにあるのか」と。
その廃墟の中から、今やひとつの音楽がきこえてくるのだ。
arの音楽は、瓦礫でできている。
しかしそれはただの瓦礫ではない。ぼくらがいつでも気に留めなかったものを、arは拾い上げた。そして埃を払い、余分なものをそぎ落とし、辛抱強く磨き上げ、美しい欠片に変えてみせた。そして廃墟に埋もれてしまったこの場所に再び、そして今度こそはその空に見合うはずのひとつのうつくしい建造物を、造りだそうとしている。ぼくらは息をのむ。その断片を見つめながら「なんという優しさと強さとうつくしさだろう」と。そのまだ見ぬ途方もない景色に感動するのだ。
願わくばその建造物が、やがてはまさしくその姿を、この世界に現してくれるように。
ぼくはarの音楽を聴いてそんな風に考えた。できればこれからずっと、聴いていきたいと思う。
たぶん、arはもっと素晴らしい景色を見せてくれるだろう。彼らの音はそんな予感に満ちている。
アルバム、LOVE LU LE LOでは明らかに新しい景色が見える。
arが見せてくれる小さな幸せ、それが本当に暖かい。
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- at 17:07